上側の女戦闘員として感じてしまったこと

ヒーローにやられて、女戦闘員が床にのびている。
私は、その胸に顔を埋める形で倒れ込む――ただそれだけの段取り。
これまで何度もやってきた構図だし、
正直、稽古前までは特別な意識はなかった。
「下で待ってくれている人に、上から重なる」
それは、やられ役同士の、よくある役割分担。

でも、今日の一回目で、はっきりと違和感があった。
伸びている女戦闘員の胸に倒れ込んだ瞬間、
思っていた以上の柔らかさに、意識が引き寄せられた。
気持ちいい、という言葉は少し違う。
どちらかというと、
包まれるという感覚に近かった。
胸に顔を預けたとき、
力が抜けて、安心してしまう。
母親の腕に抱かれたときみたいな、
懐かしさに似た感触。
こんなふうに感じるとは、思っていなかった。

彼女の鼓動が、はっきりわかる。
床に横たわっているのに、
胸の奥が生きて動いているのが伝わってくる。
私が少し体を動かすと、
その鼓動が、わずかに早くなる。
「……あ、今、私の動きで?」
そう思った瞬間、
稽古場の静けさが、急に重く感じられた。
汗のにおいも、体温も、
全部が近すぎて、
演技の距離を超えてしまいそうになる。

これは稽古だ。
これは役だ。
私は上に倒れ込む戦闘員で、
彼女は、もう意識を失っている設定。
頭では、ちゃんと理解している。
それなのに、
体のほうが先に反応してしまう瞬間がある。
顔を上げるわけにもいかない。
離れる理由もない。
そのまま、胸に顔を埋めた姿勢で、
呼吸だけを整える。
「私、ちょっと変なのかな」
そんな考えが、
胸の奥をよぎって、消える。

初めて感じた感覚だった。
だから、名前をつけられない。
欲とか、好意とか、
そういう単純なものじゃない気がする。
ただ、
近さに戸惑って、近さに安心してしまった。

稽古が終わって、
何事もなかった顔で立ち上がる。
あの柔らかさと、鼓動の速さを、
私はしばらく忘れられない気がしている。

おまけ

