














































店のドアを開けると、落ち着いた照明が目に優しく滲んだ。
ここは、夜の社交場だった。
静かにジャズが流れ、グラスの中の氷が溶ける音が微かに響く。大人たちが互いの時間を埋め合わせるように、静かに笑い、静かに語る。そんな場所だった。
僕は、カウンターに座るつもりでいた。
けれど、その前に、案内役の女性が僕の前に立った。
「いらっしゃいませ」
その声を聞いた瞬間、僕は言葉を失った。
彼女だった。
知り合いの奥さん。
何度か家で顔を合わせたことがある。彼女の旦那とは仕事のつながりがあり、何度か食事の席をともにしたこともあった。普段は控えめで上品な女性、そんな印象だった。
けれど、今の彼女は違った。
胸元の大きく開いたナイトドレス。
しっとりとした黒い生地が、彼女の身体にぴたりと沿い、豊かな胸の膨らみを際立たせていた。谷間が深く切り取られ、動くたびに柔らかく揺れる。昼間の彼女とはまるで別人だった。
「……あれ?」
僕は思わず声を漏らした。
彼女も一瞬驚いたようだった。でも、すぐに微笑んだ。
「こんばんは。びっくりした?」
僕はゆっくりと頷いた。
「……正直に言うと、すごく驚いてる」
彼女は、少しだけ肩をすくめた。その仕草に合わせて、胸元のドレスの生地が微かに動いた。
「仕事だからね。こういうのも、たまにはいいのよ」
そう言って、彼女は僕をテーブルへと案内する。
僕は、まだ状況を飲み込めずにいた。
昼間に見ていた彼女と、今目の前にいる彼女。その落差に、僕の脳は追いつかない。
でも、それ以上に、僕は目の前の彼女に惹かれつつあった。
***
「あなた、こんなところに来るのね」
彼女は微笑みながら、グラスにワインを注ぐ。
「たまたま、ね。いつもは来ない」
「そうなの?」
「うん。でも、今日は……来てよかったかもしれない」
彼女は、その言葉に少しだけ目を細めた。
「ふふ、そんなこと言って……」
彼女はワイングラスを持ち上げ、ゆっくりと口元へ運ぶ。唇が赤い液体に触れ、喉を鳴らして飲み込む。その動作ひとつひとつが、昼間の彼女からは想像もつかないほど艶めかしかった。
「意外?」
「……ああ、意外すぎるよ」
僕は、まだ目の前の光景を信じられない気持ちでいた。
けれど、確かに彼女はここにいて、僕の目の前でドレスを纏い、胸元を大胆に見せ、夜の女として接客をしている。
そして、僕はその彼女に、少し惚れかけていた。
彼女がふと、身を乗り出す。
谷間が、わずかに揺れる。
「ねえ、今夜は特別に……奥さんじゃなくて、夜の私を楽しんでみる?」
彼女の唇が、かすかに上がる。
僕は、グラスの中で揺れるワインを見つめながら、小さく息を吐いた。